悪性の可能性
夫の顎のしこりが、大きくなって腫れてきました。
診療所に行きましたが、
「解らないから、県病院に行くよう」に、言われました。
電子辞書で調べると、
「硬くて痛みがないのは、悪性の可能性が高い」
とあり、最悪な事態の可能性が浮上してきました。
心の中に暗雲がたちこめ光が消えました。
のどかなデイゴ並木も、きれいな海も、人の暮らしも、
私達とは関係が無くなってしまいました。
胸は、きゅんとちじこまり、塊が入ったようです。
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普段は感じないこと
朝、夫は名瀬の県病院にバスで向かいました。
私一人で家にいることは、めったにありません。
夫は今、バスに乗りながら「何を感じているだろう?」と考えます。
洗濯を干しながら、夫のパンツやシャツを見て、
なんだか悲しくなりました。
掃除をしても、夫の作った人形や使っていたものから、
普段はまったく感じないことを感じてしまいます。
今あるものは終わる
猫のマヤが縁側で寝ています。
落ち込んでいるとき、弱っているとき、
夫と喧嘩したときに、いてくれます。
この光景も終わる日が来ると思いました。
『終わる』ことを意識しないと、
今あるものを味わうことができないことに、気がつきました。
不安や恐怖の地下世界
県病院でも診断がつかず、しこりがどんどん大きくなるので、
年明けに、娘がいる東京に行くことにしました。
私は、病気を治すことが一番大事だと思いました。
明るい地上から、急に不安や恐怖しかない真っ暗な地下の世界に、
落っことされてしまったときに、そこから出ることを願います。
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深い層から感じる
しかし夫は、「病気というものを、利用してきた」と言いました。
病気というものは、普段考えない深い層に降りていって、
深い層からものごとを感じ、考えられる時だといいます。
そこに留まって、そこからどんなふうに見え、
感じることができるのかを、知ることは大事で、
その重要性を知っている人しか、生きることを理解できる人には、
なれないと話してくれました。
私は、負の体験は単純にマイナスしかないと、捉えてきたので、
そんな考え方もあることを知って、とても救われました。
最悪な年末年始
東京で、手術や放射線治療などの、さまざまな可能性を考えると、
紅白やお正月番組を見ても、希望を感じられず、
食欲もない年末年始でした。
5日の東京行きのフェリーに乗ろうと思っていましたが、
幸い、卵くらいあったしこりが、小さくなってきて、
10日ほどでビー玉くらいになりました。
避けられない現実
最悪な事態は今は回避されましたが、
一番考えたくない現実をつきつけられました。
死は必ず訪れ、どちらか一人になる可能性は50パーセント、
それは何時かは、解らないということです。
この現実を意識して生きなければと思いました。 |
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