ディズニー映画「トロン」(1982)、ウィリアム・ギブソンの小説「ニューロマンサー」(1984)、ウォシャウスキー兄弟の映画「マトリックス」(1999)は、いずれも電脳空間サイバー・スペースを舞台にした大作だ。現実生活はとかく展開が遅く無味なのに対して、デジタル世界内ではパワフルで壮大な設定が可能で、ストーリー展開が加速するし、とてつもない目的や意味が与えられるのだからこそ、魅了される。と同時に、のめり込むのは恐ろしい。コンピューター・ゲームに夢中になって、現実の人間関係をこわしてしまいそうな経験をした人は、少なくないと思う。
フィリップ・K.ディックの原作にもとづく映画「トータル・リコール」(1990)は、刺激的な夢をかなえる企業によって仕組まれた仮想現実から出たくなくなる、クライアントの感性にフィットするドラマ展開というのが面白かった。「トロン・レガシー」では、博士のデジタル世界における自らの夢をかなえるための分身に、その完璧さゆえに追い詰められるストーリーも、「自ら求めた過去の理想」にもてあそばれるという共通点がある。
マクルーハンのいう「メディアはメッセージである」は、今こそ深刻な警告だということを、最先端のテクノロジーを駆使した映画みずからも示唆している。 |